慶應義塾の基本方針

 慶應義塾は、国際的な教育・研究・医療機関として、また、気品の泉源・智徳の模範たることを願って発展してきた組織として、いかなるハラスメントも容認しません。
ハラスメント防止のためのガイドラインを以下のとおり定めます。

 ハラスメントは日本語の適訳がないことからも明らかなように新しい概念です。従来は“あたりまえ”のことと考えられてきた社交辞令や無意識の言動、男女の役割分担や価値観を表現することが、相手や第三者にとって不快であれば、ハラスメントになることがあります。自分では意識していなくてもハラスメントの加害者になってしまう可能性があります。
 慶應義塾は、教職員や学生・生徒などの異なった立場の人々が、また、世界のさまざまな地域から国籍・民族・宗教・文化背景などの異なった人々が、教育・研究などの活動に従事している教育・研究・医療機関です。このような環境では、各自の意識や価値観が多様であるため、潜在的にハラスメントが発生しやすい状況にあるといえます。
 このガイドラインは、どのような行為がハラスメントに該当するかを、国際的な視野に立って明示することでその防止を図ると同時に、不幸にしてハラスメントが生じてしまった場合の対処・問題解決の方法を示し、慶應義塾に関わる者全員が、本来の活動に従事できるような快適な環境を作ることを目的として作成されたものです。

ハラスメントの種類と定義

 「セクハラ」「パワハラ」といった言葉に触れることが多いと思いますが、ハラスメントはそれだけではありません。不快感を与える人権侵害に当たる行為が全て対象になります。いくつか名前がついていますが、現実にはその境界線は明確ではなく、複合したハラスメントもあります。

セクシュアル・ハラスメント 「セクハラ」と省略されます。新聞・雑誌などで、わいせつ行為や、男女間の関係のこじれや、刑事犯罪まで含むような誤った脈絡で紹介されることが多く、その定義が誤解されている場合があります。実際には、このような悪質な場合だけでなく、従来はあたりまえのことと考えられてきた無意識の言動が、相手や第三者にとって不快であればセクシュアル・ハラスメントとなることがあります。慶應義塾では、セクシュアル・ハラスメントを以下のようなことと考えます。

「相手の意に反する性的な言動により、就学・研究・就業上の不利益を生じさせること(対価型)、または就学・研究・就業環境を悪化させること(環境型)」セクシュアル・ハラスメントは、男性から女性に対する言動に限らず、女性から男性への言動や同性間のものも含まれます。
さらに、社会的・文化的に形成された性別に基づく固定的な考え方の押し付けや性的少数者に対する配慮を欠いた言動もハラスメントとされます。
アカデミック・ハラスメント 「アカハラ」と省略されます。教育・研究機関で発生するハラスメントを総称して呼ばれています。立場の優位性に基づくパワー・ハラスメントだけでなく、セクハラやアルコール・ハラスメントなど内容は様々です。
パワー・ハラスメント 「パワハラ」と省略されます。慶應義塾では、パワハラを以下のようなことと考えます。
「職務上の地位、立場の違い等による優位性を背景に、適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは就学・研究・就業環境を悪化させる行為」

優位性とは・・・立場が上の者から下の者へ、だけでなくその逆や同じ立場の者同士であっても人数や知識・経験の差など様々な優位性が含まれます。
適正な範囲とは・・・必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている場合にはパワハラには当てはまりません。
アルコール・ハラスメント 「アルハラ」と省略されます。飲酒の強要やイッキ飲ませなど相手の望まない飲酒に関する言動であり、行為者が意図したか否かにかかわらず、それによって相手に何らかの不利益または不快感を与えることをいいます。地位の上下関係や所属意識などを利用して行われたり、その他「就学上、就労上」のさまざまな人の交流の中で生じたりします。
マタニティ(パタニティ)・
ハラスメント等
妊娠・出産した女性や育児休業などを申出・取得した男女の就学・研究・就業環境が害されることをいいます。妊娠などの状態への嫌がらせと制度などの利用への嫌がらせがあります。なお、業務の分担や安全配慮などの観点から客観的にみて、必要性に基づく言動によるものは該当しません。
ケア・ハラスメント 家族の介護を行う、という状態への嫌がらせと制度などの利用への嫌がらせがあります。なお、業務の分担や安全配慮などの観点から客観的にみて、必要性に基づく言動によるものは該当しません。

加害者にならないために(見分け方のヒント)

 ハラスメントは、個人によって感じ方が異なるために、判断がつかないと思われがちです。判断がつかない場合、たとえば、自分の家族や大切に思う友人に対して、自分の言動が向けられた場合を想定してください。その内容が不快と感じるのであれば、その言動はハラスメントになる可能性が高いと考えてください。


【たとえば、これもハラスメント】
 ・個人のプライバシーに関わることを言いふらしたり、HP やSNSなどに書き込む。
 ・e-mail で人に不快感を与える画像を送る。
 ・飲み会などで手を握ったり体に触る。
 ・職場やサークルの部屋にヌードポスターを貼ったり、卑猥な話をしたり、
  卑猥なHPを見せたり見える状態にする。
 ・ゼミや職場で管理・指導する立場にいる者が、特定の者を明らかに差別し不利益を与える。
  逆に、ひいきをしたり、優遇したりして他の者に不公平感を与える。
 ・「女性には話が通じない」「男のくせに根性がない」などの性差別発言をする。
 ・個人の資質を無視し、性別だけでサークルや職場での業務分担をする。
 ・必要以上に長時間にわたって叱責したり、人格を傷つけるような怒り方をする。
 ・アルコールを飲めない・飲まない人に配慮せずに飲み会を行う。
 ・相手の年齢や容姿を話題にしてからかう。
 ・個人的な性体験について質問したり、自分の経験談を話す。
 ・執拗に身体接触をする。
 ・SNS などで性的な噂や誹謗中傷を書き込む。
 ・性的役割に関する決めつけや差別をする。
 ・私的なことに過度に立ち入った質問を執拗に繰り返す。
 ・妊娠・出産・育児・介護などの制度利用への嫌がらせをする。
 ・自分の好き嫌いだけで、相手に辛くあたったり、周囲に悪口を言う。
 ・みんなの前で罵声を浴びせたり、長時間の叱責を繰り返す。
 ・人格を否定する発言をする。
 ・正当な理由なく業務・研究などに必要な指導を行わない。
 ・明らかに達成不可能な業務・研究などを強要する。
 ・時間を問わず、メールやLINE などで指示をしたり、返信を迫る。
 ・業務や就学に支障が出るほど、指示決定を遅らせる。
 ・個人の選択による就職や雇用契約への不当な介入を行い、影響を行使する。
 ・飲酒の強要や意図的な酔いつぶし、また飲めない人への配慮を欠くこと。
 ・酔ったうえでの迷惑行為。
 ・セクシュアルマイノリティ、異文化・宗教、障害などに関する心ない言動。

 これら以外にも、日本ではあたりまえだと思うことが、外国においては、文化の違いによりハラスメントになることもあります。また逆に外国の習慣が日本人には不快に感じられてしまうこともありえます。

被害者にならないために

 ハラスメントは、被害者の責任で起こることではありません。自分を責めたり、我慢したりせず、嫌なことは嫌と相手にはっきり伝えることが、自分にも相手にも大切なことです。事態が悪化しないうちに行動しましょう。

慶應義塾の一員として

 ハラスメントとは人権侵害です。ハラスメントとは何か、について一人ひとりが理解し適切な行動をとることはハラスメントを防ぐためにとても有益です。互いの立場を理解し合い、適切な距離感を持って良好な関係性を築き、誰もが安心して活動できる環境を保ち、向上させましょう。